障害アイデンティティ肯定のための3つの戦略

障害者は自らのアイデンティティを肯定的なものにするために、その否定的な影響を緩和しようとする。そのための戦略としては、次の3つが考えられる。すなわち、「障害」を軽視してその否定的な影響を減少させるか、否定的に意味付けられる「障害」を否定し克服しようとするか、「障害」を肯定的に意味付け直すか、のいずれかである。「障害の軽視」は、「障害」を自らのアイデンティティの中でとるに足りないものと認識してそれ以外の部分が「本当の自分」であると考えること、また「障害」以外の部分で肯定的なアイデンティティを確立して「障害」の占める位置を相対的に低下させること等が含まれる。また、「障害の否定」は、アイデンティティに否定的に作用する「障害」そのものを消去し、あるいは軽減しようとする態度である。「障害の肯定」とは、「障害」を自らのアイデンティティの一部として積極的に受け入れた上で、その価値を肯定的なものに反転させていこうとすることである。
、「障害の否定」という戦略は、「障害」のスティグマとしてのインペアメントやディスアビリティの位相が主題化されたときに採用される傾向がある。スティグマとしてのインペアメントに関しては、それに伴う被差別体験が否定的な感情を誘発し、アイデンティティを損傷することにつながるのだから、それは消去すべき対象となる。そこで障害者は、スティグマのシンボルとして機能する身体的な差異を消去するか、あるいは身体的な差異をスティグマ視する社会的価値を改変することで、スティグマとしてのインペアメントを克服しようとするのである。また、ディスアビリティに関しては、社会的に要求される活動が「できない」という経験が、障害者のアイデンティティを損傷する。したがって、「できない」とされていたことが「できる」ようになるための努力をしたり、「できない」状況を作り出してきた社会的障壁を除去することで、ディスアビリティを解消しようとすることになる。つまり、いずれにおいても「障害」の消去の戦略には個人的側面と社会的側面が含まれることになる。