インペアメントの位相

インペアメントの位相を、その発生過程に着目して区別したい。まず、個人の身体に着目する限り、そこには純粋に生理学的に同定が可能な身体的な機能や形態がある。それぞれの個人の身体には一定の機能・形態があり、それはその個人の生の条件となる。例えば、指がない、といった状態がこれに当たる。もちろん個体に注目する限り指が「ない」という認識すら伴わないのであるが、ここでは便宜上そのように記述しておく。指がない、という機能・形態を持った身体を与えられた「障害者」は、その身体に応じて、生を営むことになるのである。
 さらに、この特定の機能・形態に関連して差異の認識が生まれる。他者との接触を通じて、複数の個人の有する身体上の機能・形態を比較することによって、互いの差異が認知されることになる。当然のことながら機能・形態に関わる差異や特徴は、個人に内在するのではなく、他者との比較を通じて関係として成立するのである。指がない手を持っていることが、他の人と異なっていることを認識し、それが人の目を引く特徴(多くの場合それはマイナーな特徴として現れる)であることを意識したことで、その機能・形態は差異として把握されるのである。
 ここで認知された差異に対して社会が与える特定の否定的なサンクションによって、「障害」は立ち現れることになる。これは社会においてインペアメントが問題化する水準であり、比較によって浮かび上がった差異に劣等性や異常性を付与する社会的場面において成立する。社会はある種の価値を含むことなしには存立し得ず、その価値に照らして正常なもの、望ましいものからの逸脱と見なされた差異は否定的に価値付けられる。中でもその否定的な価値付与が強力で固定化しており、相互作用場面の中で常に焦点化されるような種類の特定の差異は、「障害者」を特別な存在として認知させるように機能することになる。そうして浮かび上がってくるのがこの水準のインペアメントである。これをスティグマとしてのインペアメントと呼ぶことにしよう(11)。